積み上げよう③

 子どもたちの大好きな取り組みの一つに「ラッシュアワー」というのがあります。ギュウギュウ詰めの駐車場から車を脱出させるゲームです。かっこいい車がずらりと並んでいるのを見て、初めて取り組む子どもたちは歓声を上げます。ところが、なかなか難しいのです。思うように動いてくれない。同じ事ばかりを繰り返してしまい先に進めない。ここが分かれ道です。じっくり考えながら動かす子と、やみくもに動かしているだけの子、早々とあきらめてしまっている子とそれぞれです。

 時間になったから今日のレッスンは終わりですと言っても、「もうちょっとさせて。」と放さない子もいます。ヒントを出そうとすると、「自分でやらせて」と言って、私の手を払いのけます。そういう子はぐんぐん伸びていきます。これが紙の問題になっても同じことがおこるからです。じっくり考えて自分で答えを見つけ出そうとできる子が伸びないはずがありません。

 これには大きな理由があります。例えば、ラッシュアワーでは、「この車を前にやって、それからこの車は右に、いや、その前にこの車を動かさないと。そのためにはこの車を…」と、車を出そうと、もがけばもがくほど頭がこんがらがってきます。そして、ついに脱出できた時には、「やったー!」と脳にドーパミンがドバっと出ます。ドーパミンはやる気や集中力、思考に関与するといわれる神経伝達物質の一つです。

このドーパミンが出ることで喜びを感じ、次もまたチャレンジできるのです。手伝ってもらって脱出できても嬉しさは半減なので、ドーパミンが出ることもありません。考えれば考えるほど伸びていく仕掛けは実はここにあったのです。

 のめりこめた子は、できようができまいが本人に任せておいて構いません。ぐんぐん伸びていきます。では、楽しめない子はどうすればいいのでしょう。隣で一緒に悩んであげてほしいのです。お母さんやお父さん、お友達、誰でもいいのですがじっくり考えているところを見せてあげてほしいのです。間違っても「こうして、ああして」と指示を出してはいけません。そうすると、指示を待つだけで、指示通り動かしてもドーパミンがでることはありません。目先の「できた」、「できない」にこだわらず、子どものやる気が出るように導いていきたいですね。 国際数学オリンピックでは、4時間30分をかけて3問を解きます。粘り強さは一日にしてならず。じっくり育てていきたいです。